今回は僕がガンプラを全塗装で作る時の制作工程について、準備から完成までの一連の流れを全て紹介します。
全塗装というと大掛かりですが、僕は改造はしませんしスジボリやヤスリがけ、合わせ目消しなどのめんどくさい細かな作業はやりません。
今までパチ組みやスミ入れ、トップコートだけで仕上げていた人や、これから塗装にチャレンジしてみたい人の参考になれば幸いです。
使用キット
制作工程の紹介にあたって『MG 1/100 エールストライクガンダム Ver.RM』を使って説明します。
ABSパーツへの塗装について
本記事で紹介するキットは、関節など本体フレーム部分のパーツにABS樹脂が使われています。
ガンプラを含む、プラモデルのプラスチックパーツに使われる原料の一つです。ABS樹脂の他にはPS(ポリスチレン)樹脂や、バンダイが開発したKPS(強化ポリスチレン)樹脂などがあります。
以下引用のように、ABSパーツへの塗装は各メーカーからは非推奨とされています。が、その上で僕はABSパーツに対しても塗装を行うので、その手順についても本記事で触れていきます。
バンダイ
■スプレー缶塗料
塗料の種類によっては、「ABS樹脂」へは、使用できません。
■ラッカー系塗料
ラッカー系塗料はABS樹脂が割れる場合がありますので注意してください。
■溶剤
エナメル溶剤やラッカー溶剤、アルコール系溶剤を使用する塗料は、ABS樹脂を破損する恐れがあります。
バンダイ ホビーサイト
コトブキヤ
ABSパーツの塗装が推奨されない理由
ABSパーツを塗装すると、塗料に含まれる溶剤(薄め液)がパーツの樹脂内に浸透し揮発すると、浸透部分が小さなヒビとなってパーツがもろくなります。
コトブキヤ製品情報ポータルサイト
組み立て時や組み立て後、パーツ同士の接合部や関節部分などの浸透部分に負荷がかかると破損が起こります。これがABSパーツの塗装が推奨されない理由です。
ABSについての詳細や、塗装のポイントについては以下の記事にまとめているので併せてどうぞ。
事前準備1:道具チェック
まずは作業前の準備として、キットを作るために必要な道具が揃っているか、をチェックします。
いざ作ろうと思うと「ニッパーの刃が錆び付いてる」とか「マスキングテープが足りない」となるので、まずは必要な道具が一式揃っているか改めて確認して、ないものは買い足しておきます。
参考までに、僕が普段使っている道具のリストは以下です。
事前準備2:塗装レシピの用意
塗装に使う塗料選びと、塗装レシピの作成を行います。もちろん、塗る色を決めるのはキットを組み立て始めてからでも構いません。
僕は、後になって「あれ、あの色持ってたはずなんだけど」とか「塗料が足りん」となるのがめんどうなので先に決めちゃいます。
ちなみに、後片付けがめんどくさいのが理由でエアブラシは使いません。基本的にはスプレー缶での塗装で済ませています。
STEP1:ランナーカット
準備が終わったら、さっそく制作作業にかかります。
まずは袋からランナーを取り出し、ランナーについたパーツをランナーカット用のニッパーで切っていきます。使用しているのはグッドスマイルカンパニーの『MSS-41 匠TOOLS 極薄刃ニッパー』です。
僕の場合は各パーツを頭部、右腕、バックパックなどで分けて管理したいので、手元の取り扱い説明書をみながら部位別に作業を進めます。
ちなみに、ABSパーツについては「ランナー塗装」(パーツがランナーについた状態のまま塗装をすること)をするのでまだカットしません。これはケースバイケースで、ABSパーツも、このタイミングでまとめてカットすることもあります。
今回は、キットに使われているABSパーツの数が多く、パーツ一個一個を塗装するのが手間なので、ランナー塗装を選びました。
STEP2:パーツの仕分け
部位別にカットしたパーツが机の上で混ざらないよう、一つの部位をカットし終わるごとに「頭部/胸部/右腕/左腕/右脚/左脚/バックパック」などに仕分けます。
比較的パーツ点数のすくないHG(ハイグレード)やEG(エントリーグレード)などのシリーズならもっと大まかに「頭と胴体/腕部/脚部/その他」などの仕分け方で十分かもしれません。
どっちにしても後で自分が見た時に「どれがどこのパーツか?」が分かればOKです。
僕はポリ袋に入れて、どの部位か分かるように名称を書いたマスキングテープを貼り管理しています。
袋なのでかさばらず、不要になったらすぐ捨てられますし、チャック付きなのでパーツを無くしたりゴミやホコリが付かなくて管理が楽です。
また、作業を中断する時も、そのまま袋に突っ込めばいいので片付けが楽なのもポイント。使っているのは100円ショップで手に入るものです。
STEP3:ゲート跡カット
全てのパーツを仕分けして、ランナーが片付いたらゲート跡の処理です。一度に全てのパーツを机に広げてごちゃ混ぜにならないよう、これも部位ごとにやっていきます。
パーツに残っているゲート跡をニッパーでカット。ゲート跡カットにはタミヤの『クラフトツールシリーズ No.123 先細薄刃ニッパー』を使用。
一部、ゲート跡が残る場合はデザインナイフを使ってカリカリ削ります。僕が使っているのはオルファより発売の『アートナイフ10B』です。
僕はお手軽派なのでヤスリがけはせず、ニッパーとデザインナイフだけで作業を終わらせます。
上の画像のように一部のゲート跡は白化してしまいますが、最終的に全てのパーツを塗装するので気にしません。
STEP4:プライマー塗装(ABSのみ)
全てのパーツのゲート跡処理が終わったら、ABSパーツに対し塗装時のパーツ割れ防止を目的にプライマー塗料を吹きます。(キットにABSが含まれない場合はこの工程はスキップです。)
ポリキャップや金属パーツなどの、塗料が乗りにくく塗装ハゲを起こしやすい素材に対して塗装前の下地として塗ることで、塗料の食いつきを良くするもの。
また、ABSパーツを塗装する際、塗料の浸透によるパーツ割れを防ぐためのコーティングとしても使われます。
使うのは、染めQテクノロジィより発売の『ミッチャクロン マルチ スプレー』です。
上の画像は、プライマー塗装後のもの。塗料は透明なので、ちゃんと吹けているか見ずらいですが表面のツヤ感で判断します。また、プライマー塗装後のパーツ表面を触るとペタッと粘着質な感触になります。
前述の通り、キットのフレーム部分は全部ABS。パーツ数が多く一個ずつ塗装するのがめんどうなので、今回はランナーごと塗装しています。
STEP5:本塗装(ABSのみ)
プライマー塗料が乾燥したら、ABSパーツに対して塗装を行います。(キットにABSが含まれない場合はこの工程はスキップです。)
PSやKPSパーツは、この後の仮組みを行ってから塗装しますが、ABSパーツはパーツを組む前に塗装を完了させます。また、下地用のサーフェイサーはABSパーツには吹きません。
理由としては、塗料の浸透によるパーツ破損の危険性を下げるためです。詳しくは以下の記事に書いているのでご参考ください。
ABSパーツにランナー塗装をしたのがこちら。
クレオスの スプレー缶塗料『S32 軍艦色(2)』で塗装しています。
このあと塗料が乾いたら、ランナーからパーツをカットしゲート跡を処理します。また、STEP2でパーツを仕分けたように、ABSパーツも部位別に仕分けして管理しやすくしておきます。
STEP6:仮組み(ABS以外)
ここまでで、ABSパーツへの塗装作業が完了しました。続いてABS以外のパーツの仮組みを行います。
一般的に仮組みというと、一度全てのパーツを組み上げて、一度キットを完成させることを指します。
いわゆるパチ組みですね。ただ僕の工程においては、そこまでやるメリットがないので作業内容が少し違います。
順を追って説明すると、まず一般的な仮組みの主なメリットは主に以下の3つです。
仮組みのメリット
- 改造箇所の把握
- ディティールアップ作業の効率化
- 塗装イメージの把握
1.改造箇所の把握
ここで言う改造とは例えば、パーツに穴を開けたり、あえて2つのパーツに分割したり、別のキットのパーツを組み合わせてミキシングしたりなどの加工をすることを指します。
そのような改造をする場合は、バラバラのパーツ単位ではなく、組み上げたキットを見ながらのほうが「どこをどう加工するか?」「いじった時に稼働に影響ないか?」などが把握しやすいので仮組みを行います。
僕の場合、改造は行わないので個人的なメリットには当たりません。
2.パーティングライン処理や合わせ目消しなどの効率化
プラスチック樹脂を成形する時に使う金型の跡をパーティングラインと呼びます。パーティングライン処理とは、パーツを磨いてパーティングラインを消し、ディティールアップをすることです。
パーツを組んだ時に見えるパーツの境目のラインを消して、見た目を整えることです。
パーツによっては、組み立てた時に他のパーツで隠れて見えなくなる部分があります。「どうせ見えないなら、手を入れる必要ないよね」の観点から、仮組みをしてキットの完成形を見ておくことで「どこは手を入れなくて済むか?」が把握しやすく、不要なディティールアップ作業を減らせます。
僕の場合、パーティングライン処理も合わせ目消しもしないので、これも個人的なメリットには当たりません。
3.塗装イメージの把握
パーツ単位だと「このパーツはどの色で塗るのか?」が分かりにくいですが、仮組みをすれば、それぞれのパーツを一つの固まりとして把握できるので、どう塗り分けるかを視覚的に捉えられます。
僕のようにガンプラのMG(マスターグレード)シリーズやFULL MECHANICSシリーズを作る場合なら、色分けがほぼ再現されているので「このパーツは本来何色で塗るべきか?」に迷うことは、滅多にありません。
色分けがMGほど細かくないHG(ハイグレード)、EG(エントリーグレード)シリーズや、ガンプラ以外のパーツの色分けが乏しいキットを塗装する場合。もしくはオリジナルの配色で塗装する場合には、塗装色の把握という点で仮組みは有効です。
同じ色で塗装するパーツ同士のみで仮組み
以上の一般的なメリットを踏まえた上で、僕は塗装作業の効率化を理由に同じ色で塗装するパーツ同士だけで組みます。
上の画像がその一例。こうすることで、同じ色で塗る複数のパーツをまとめて塗装できます。
パーツを一個ずつ塗装するより作業効率が良いのと、乾燥させるスペースを取らなくて済んだり、使う持ち手棒も少ない数で済むのでこのやり方を取っています。
成形色での色分けが乏しいキットだと、結局マスキングをして塗り分けも必要なので、あまり有効ではないですが、MGなどの色分けが細かくパーツ数の多いキットなら役立つかと。
また、パチ組みほどではなくても「どのパーツがどう組まれて最終的にどの位置に来るか?」「色分けの再現がされてない部分はあるか?」くらいは、この程度の仮組みでも十分把握できます。
この記事で扱っている『MG 1/100 エールストライクガンダム Ver.RM』はパーツ分割上、まとめられる部分がそんなになかったですが、たとえば他のキットだとこんな感じ。
上の画像は『MG 1/100 ガナーザクウォーリア(ルナマリア・ホーク専用機)』。ABSが使われていないので、本体フレーム含め、外装パーツ以外のほとんどを仮組みできます。
これくらいまとまった状態で、塗装できれば楽ですね。
上の画像は『FULL MECHANICS 1/100 カラミティガンダム』。こちらもABSは未使用なので、仮組みできるパーツが多いです。また、MGと違ってパーツ分割が多くない割に成形色の色分けは優れているので、それも塗装が楽なポイントです。
パーツは隙間を開けて組んでダボ処理をスキップ
上の画像のように、僕の仮組みではパーツ同士をパチっとはめ込むことはしません。
本来、仮組みはパーツ同士をキッチリはめてパチ組み状態にします。その際、あとでバラしやすいように「ダボ処理」をするのが一般的かと思います。
パーツをはめるためのピン(ダボピン)を短く切ったり穴(ダボ穴)を広げ、はめ込みの加減を緩めることで、仮組みの後などのパーツを分解する時にバラしやすくすることです。
前述の通り、僕の仮組みは「なるべく、まとめて塗装して楽をしよう」というのが目的のため、キット全体を組み上げる必要がありません。
「わざわざダボ処理をするほどではないけど、バラす必要はある」ということで、パーツ同士をゆるく組むやり方を取っています。
STEP7:下地塗装(ABS以外)
仮組みまで終わったら、次に下地として各パーツにサーフェイサーを塗装します。
主に塗装に入る前の下地としてパーツに吹く塗料です。
上の画像は青い成形色パーツに、グレーのサーフェイサーを塗装したイメージです。
僕がサーフェイサーを吹く理由は3つあって、
- 塗装の時に「ちゃんと色が塗れているか?」を見やすくするため
- プラスチックのおもちゃっぽさを消すため
- 塗料が下地色の影響を受けないようにするため
になります。
また、塗装後のパーツ割れが怖いので、ABSパーツにはサーフェイサーは吹きません。
塗料を吹く際には作業がしやすいよう、パーツに持ち手棒をつけておきます。塗装が終わったら、塗装ベースにパーツを立てて乾燥させます。
STEP8:本塗装(ABS以外)
パーツの乾燥が終わったら、いよいよ本塗装です。サーフェイサーの時と同じく、持ち手棒をつけた状態で順番に塗装。
塗装が終わったら再度、塗装ベースに刺して乾燥させます。
上の画像は塗装の一例。グレーのサーフェイサーの後に、クレオスのスプレー缶塗料『S65 インディブルー』を塗装したイメージです。
色味の変化はもちろん、プラスチックの軽い質感やテカリも目立たなくなりました。
STEP9:スミ入れ
すべてのパーツの塗装と乾燥が終わったら、スミ入れです。
パーツに彫り込まれているスジ状のラインに塗料を流し込み、陰影を表現することでキット全体のディティールを際立たせ、リアルさを演出するためのテクニックです。
スミ入れはキットを組み立てながらでもいいですが、パーツがバラけていた方が作業しやすいのと、パーツの合わせ目にスミが流れ込むのを防ぎたいので、僕はこのタイミングで行うことが多いです。
スミ入れにはタミヤの『エナメルスミ入れ塗料』を使用。
スミを流したい部分に軽く筆を当てると、モールドに沿って塗料がスーッと流れていきます。
はみ出た部分は、同じくタミヤの『エナメル 溶剤』を綿棒につけて軽く撫でるだけで拭き取れます。
溶剤が塗料を溶かすので、スミを残したいところまで消さないように注意します。
STEP10:組み立て
取り扱い説明書に沿って、各部位ごとにパーツを組み立てます。小さいパーツや似た形状のパーツだと組み立てを間違えやすいですが、最初に部位ごとにパーツを仕分けていたことでミスも起きにくいです。
この後、仕上げのコート剤を吹くので「頭/胴体/腰/右腕/右脚/左腕/左脚」などの部位ごとの組み立てにとどめます。
STEP11:コート剤の塗装
部位ごとの組み立てが終わったら、コート剤を吹きます。
パーツに吹くことで、表面のツヤを整えプラスチックの質感を変えることができる無色透明の塗料です。また、パーツ表面の塗装やシール、デカールを保護する役割も持ちます。
僕はマットな仕上がりが好きなのでキット表面のツヤやテカリを無くしてくれる、つや消しタイプのコート剤を使います。
商品としてはクレオスの『Mr.スーパースムースクリアー(溶剤系スプレー) つや消し』です。
持ち手棒を付けて、まんべんなく塗装。この時、つや消しさせたくないパーツにはマスキングテープを貼って保護しておきます。
STEP12:組み上げ
コート剤が乾いたら、ついに組み上げです。
この時も、せっかくここまで塗装したパーツが塗装ハゲしないように慎重に組んでいきます。
完成
以上の工程を持って、僕の全塗装制作は終了です。キットによってはマーキングシールやデカールが付属していますが、僕は基本的に貼っていません。
キットの情報量が増えるのでより見た目のクオリティやメカらしさ、を与えてくれますが、個人的には「ちょっとやかましいかな」というのと「アニメで見てる分には映らない要素」という理由で貼りません。
「貼る作業時間と、ミスった後のリカバリーがめんどくさい」というのもありますが。
塗装をすることで、プラスチックのツルツル感や軽さが消えて、金属として中身が詰まっている感のある「重さ」が出せます。
お伝えの通り、僕は合わせ目消しやヤスリがけ、パーティングライン処理など「クオリティは上がるけども、時間のかかる作業」は一切やりません。また、そもそものスキル的にも画像の通り、粗さや雑さが見えることと思います。
それでも僕は「趣味は自己満足」なので気にしませんし、キットが組み上がるたびに達成感と「また一つ、かっこいい機体が棚に並ぶ!」と毎回喜んでいます。
普段の生活リズムや、趣味に使える時間、お金など自分にとって無理のない範囲で楽しめることが、趣味として長く続ける上で僕にとっては重要です。
今回、全塗装の工程を細かく紹介したこともあり全12ステップにもなりましたが、この記事が塗装制作の参考になればと思います。