今回はABSパーツへの塗装に対して僕なりの結論を書きます。
ABSパーツへの塗装に悩んでいる人や、これから塗装を始めたい人、そもそもABSって?という人の参考になれば幸いです。
ABSへの塗装は4つに気をつければOK
最初に結論を言うと、僕はABSパーツに塗装をする時は以下の4つを守れば、パーツ割れのリスクを最大限抑えることができると考えます。
- ABSパーツは組み立てる前に塗装する
- ABSパーツの保護を目的にプライマー塗料を塗る
- ABSパーツに塗る塗料を限定する
- 薄塗りと乾燥に気を配る
ABSへの塗装方法について見聞きしている人からすれば、どれもご存知か実践済みだと思うので、これ以上の情報はこの記事にないことだけ、先にお伝えしておきます。
僕も何かいい方法ないかと、数日かけて調べましたが(結局?)これが行き着いた答えです。
それぞれの詳細は記事の後半に記載しつつ、以下からはそもそもABSって?のとこから順を追って書いていきます。
ABSとは
ABS(アクリロニトリル・ ブタジエン・スチレン)樹脂とはガンプラを含む、プラモデルのプラスチックに使われる原料の一つです。ABS樹脂の他にはPS(ポリスチレン)樹脂や、バンダイが開発したKPS(強化ポリスチレン)樹脂などがあります。
ABSは衝撃や圧力に強い素材なので、ガンプラに限って言えば主に関節などの可動箇所、フレーム部分に採用されています。
後述の通り、ABSは塗装に不向きなことから次世代の素材としてバンダイはKPSと呼ばれる、塗装が可能な独自素材を開発。2012年頃以降発売のガンプラには、ABSじゃなくKPSが採用されることが増えています。
KPSは強度と柔軟性を両立し、塗装にも適しているほか、リサイクルにも対応しています。
株式会社バンダイ・株式会社BANDAI SPIRITS 公式企業サイト
また、2012年以前に発売のガンプラでも一部キットでは、ABSパーツがKPSに変更されて再販されているパターンもあるようです。
ABSパーツの問題点
プラモ塗装派の人には、ABSパーツは頭を悩ませます。ABSパーツをPSやKPSの感覚で塗装すると、パーツが割れたり崩れる(可能性が高い)からです。
ABSパーツは素材の特性上、PSやKPSと比べて塗料に含まれる溶剤への耐久性が低く、塗装によってパーツが脆くなります。また、前述の通りガンプラであればキットの稼働部分に当たる、関節周りに多く使用されています。
なので完成後にキットをガシガシ動かすと、負荷のかかったABSパーツ部分が割れたり、完成前でも塗装後のABSパーツを組んでいる時にボロッと崩れたり、といった可能性が高いです。
バンダイ公式からも、以下のようにABSパーツへの塗装は非推奨とのこと。
■スプレー缶塗料
塗料の種類によっては、「ABS樹脂」へは、使用できません。
■ラッカー系塗料
ラッカー系塗料はABS樹脂が割れる場合がありますので注意してください。
■溶剤
エナメル溶剤やラッカー溶剤、アルコール系溶剤を使用する塗料は、ABS樹脂を破損する恐れがあります。
バンダイ ホビーサイト
逆に上記に当てはまらないのは、水性塗料と呼ばれるプラスチックに浸透してもダメージの弱い塗料です。クレオスの『アクリジョン』シリーズやタミヤの『アクリル塗料 ミニ』シリーズなどが該当します。
僕はいつも、クレオスやタミヤのスプレー缶タイプのラッカー塗料を使っているので使用NG扱い。エアブラシや筆塗りをしない自分には困った問題でした。
推奨はされないけどABSへの塗装は一般的
とはいえ、ABSパーツへの塗装は100%不可能かということはなく、様々なモデラーの方の作例はもちろんのこと、なんならバンダイホビー公式サイトにおいても、ABSへの塗装を確認できます。
ABSパーツはガンプラに限らず、バンダイのほかのプラモデルはもちろん、コトブキヤやタカラトミーなど各企業が展開しているプラモデルでも一般的に使われていますし、塗装作例も多数あります。
結局のところ、ABSパーツへの塗装は危ないと言われている反面、そんなこと気にせず仕上がり優先で塗装するケースも割と一般的、というのが僕の感覚です。
色々と調べて分かったのは、ABSパーツは割れるリスクはある(他の素材に比べてリスクが高い)ものの、原因を知り正しく対策すれば、破損リスクは抑えられるし塗装可能ということです。
ABSパーツが割れる原因
ABSパーツが、どんな理屈で割れるのかについては以下が詳しいです。
ABSパーツの塗装が推奨されない理由
ABSパーツを塗装すると、塗料に含まれる溶剤(薄め液)がパーツの樹脂内に浸透し揮発すると、浸透部分が小さなヒビとなってパーツがもろくなります。
組み立て時や組み立て後、パーツ同士の接合部や関節部分などの浸透部分に負荷がかかると破損が起こります。これがABSパーツの塗装が推奨されない理由です。
コトブキヤ製品情報ポータルサイト
パーツに負荷がかかって目に見えない細かいヒビが入るんです。
そこを塗装すると、塗料の溶剤分が細かいヒビに浸透してパーツがもろくなり…
このように割れてしまうのです。
今日の制作アトリエブログ
上記引用を踏まえて、ABSパーツが割れたり砕けるのは以下の流れです。
- パーツに負荷がかかった時に、目に見えないレベルの亀裂が生まれる
- 亀裂に塗料(塗料に含まれる溶剤)が浸透して樹脂が劣化、結果的にパーツが壊れる
キットを作成する以上、パーツ組み合わせ時に力が加わるので、負荷を完全に防ぐのは不可能。塗装する以上、溶剤が触れた樹脂の劣化は防げません。
じゃあどうするか、が記事の頭に書いた僕の結論です。以下に詳しく書きます。
ABSパーツ割れを防ぐ対策4つ
この記事の最初に書いた通り、僕の対処法は以下の4つです。
- ABSパーツは組み立てる前に塗装する
- ABSパーツの保護を目的にプライマー塗料を塗る
- ABSパーツに塗る塗料を限定する
- 薄塗りと乾燥に気を配る
1.ABSパーツは組み立てる前に塗装する
前述の通り、ABSが割れるのはパーツを組んだ時にできた亀裂に塗料が染みるのが原因です。
逆に言えば亀裂が入る前、ようは組む前に塗料を塗れば割れにくくなります。
なので塗装のタイミングとしてはキットを箱から出した時のランナー状態の時、またはゲート跡処理後のどっちかになります。
パーツに最も負荷がかかってないのはランナー状態の時ですが、ご存じの通りランナーのまま塗装するとパーツカット後のゲート跡に塗料が乗りません。
ゲート跡の位置によっては、あとあとゲート跡だけを再度塗らないといけないので、かえって手間になることがあります。
なのでキット完成後の各ABSパーツのゲート跡の位置や、仕上がりの見た目と作業の手間を天秤にかけて、ランナーごと塗装するかパーツごとに塗装するかは自身のお好みで判断しましょう。
2.ABSパーツの保護を目的にプライマー塗料を塗る
パーツを組む前とはいえ、亀裂が100%入ってないとは思いません。パーツを切り離したりゲート処理の段階で、ゲート跡部分に負荷がかかっているからです。
ゲート跡の亀裂から、パーツ破損に繋がるリスクを下げるために使うのがプライマー塗料です。僕は染めQテクノロジィより発売の『ミッチャクロン マルチ スプレー』を使っています。
ポリキャップや金属パーツなどの、塗料が乗りにくく塗装ハゲを起こしやすい素材に対して塗装前の下地として塗ることで、塗料の食いつきを良くするものです。
上記の通り本来の用途は下地への塗料乗りを良くするためですが、ここではパーツの保護を目的に使用します。
本塗装の前にプライマーを吹くことで、パーツ全体がコーティングされ塗料の浸透を防ぎます。
これは、ABSの塗装方法について探している時にネットで見つけたやり方です。実際にこのやり方でパーツ割れが防げたとの記述もチラホラあったので採用しました。
ちなみに使うプライマー塗料については、上記のミッチャクロンのほかガイアノーツより発売の『ガイアマルチプライマーアドバンス』もあります。
ただ性能面での差は特になく、ミッチャクロンの方がコスパが良いです。
定価だと『ミッチャクロン マルチ スプレー』が420mlで2,090円(税込)、『ガイアマルチプライマーアドバンス』が50mlで990円(税込)。
これを100mlで計算すると『ミッチャクロン マルチ スプレー』が約498円、『ガイアマルチプライマーアドバンス』が1,980円です。4倍近い価格差なので、こだわりがなければミッチャクロンでいいと思います。
また、ミッチャクロンはスプレー缶タイプなのでそのまま吹けるのもポイントです。(ガイアマルチプライマーアドバンスはエアブラシが必要)
サーフェイサーかプライマーか
パーツの保護が目的なら、普段から使っているサーフェイサーでもOKでは?と思い調べましたが、結果的に、以下の理由から見送りました。
- ABSを侵食する溶剤が含まれている
- 塗膜が厚いので溶剤が染みる可能性がある
- パーツに厚みが出るので稼働に影響がある
サーフェイサーにはラッカー塗料などと同じく、ABSを侵食する溶剤が含まれています。サーフェイサーを吹いてパーツが割れたら本末転倒です。
そして、サーフェイサーは塗装用の塗料と比べて、塗膜が厚くなりやすいです。なのでその分乾きにくく、乾燥を待っている間に溶剤が染みる可能性があります。
また、塗膜が厚いということはパーツが厚くなります。ガンプラの場合、ABSは関節などの稼働部分に使われることが多いので、パーツを組んだ時や動かす時に塗膜の厚みで稼働がギチギチになる可能性があります。
ここは、あらかじめ塗膜の厚み分、パーツをやすりがけして削っておくやり方がありますが、面倒なので僕はやりません。
3.ABSパーツに塗る塗料を限定する
ABSパーツは塗る塗料の種類によってパーツ割れのリスクが変わります。再度バンダイ公式サイトの記載を引用すると以下の通りです。
■スプレー缶塗料
塗料の種類によっては、「ABS樹脂」へは、使用できません。
■ラッカー系塗料
ラッカー系塗料はABS樹脂が割れる場合がありますので注意してください。
■溶剤
エナメル溶剤やラッカー溶剤、アルコール系溶剤を使用する塗料は、ABS樹脂を破損する恐れがあります。
バンダイ ホビーサイト
エアブラシや筆塗りをするなら上記に当てはまらない、クレオスの『アクリジョン』シリーズやタミヤの『アクリル塗料 ミニ』シリーズなどの、プラスチックへのダメージの低いアクリル塗料を使うことで、リスクを最小限にできます。
最善策はアクリル塗料と理解しつつ、僕のようにスプレー缶塗料(=ラッカー塗料)での塗装をどうしてもやるなら、一定のリスクはあることを頭に入れておきます。
もちろん、だからこそ「組み立て前の塗装」と「プライマーでのパーツ保護」が外せません。
また、塗装にラッカー塗料を使う分、それ以上のリスクを負わないようスミ入れやコート材に使う塗料を厳選。ABS素材に相性の悪い、エナメル系やラッカー系、アルコール系の塗料・溶剤は極力避けて、水性塗料を選びます。
プライマーでコーティングするものの、念には念を、の判断です。
この辺もネットで色々調べて決めました。僕が実際にABS塗装に使っている塗料と、逆に使用NGの塗料一覧は、別の記事にて後日掲載予定です。
4.薄塗りと乾燥に気を配る
先ほど僕がABSにサーフェイサーを使わない理由に書いた通り、塗った塗料が多いほど乾燥に時間がかかります。そして乾燥に時間がかかる分、溶剤がパーツに触れる時間が増えるので、浸透して割れるリスクが高まります。
それを回避するために、塗料を塗る時は一度で塗りきろうとせず、数回に分けて薄く塗り重ねます。
薄く塗って乾燥したら、また塗ってを繰り返すことでパーツ内部へ溶剤が浸透する前に塗料が乾いてくれます。幸いスプレー缶塗料はラッカー系塗料なので、乾燥時間が早いのが救いです。
また、乾燥時間を早めるためにドライヤーを当てるなどして強制乾燥させるのも一つの手になります。
塗装を恐れず、ただし自己責任で
ここまで書いた以下の4つの点に気をつければ、ABSパーツへの塗装は可能というのが僕の結論です。
- ABSパーツは組み立てる前に塗装する
- ABSパーツの保護を目的にプライマー塗料を塗る
- ABSパーツに塗る塗料を限定する
- 薄塗りと乾燥に気を配る
それでも、上記を全部やったから100%大丈夫という保証はできません。
作ってしばらくは問題なくても「1年後、3年後に触ったら割れた」なんてパターンもあり得ますし、単に経年劣化によるものかもしれません。
逆に、4つ全てやらなくても割れない時は割れないでしょう。
こればっかりは運もあるかな、と思いつつABSへの塗装は自己責任の元やっていきます。(ABSを使っているキット、全てKPSに変えてくれないかなバンダイさん)